涙が零れた



―—何で？



それは僕が僕に問いたかった

何かが苦しいとか辛いとかそんなんじゃなくて

寂しいとか痛いとかそんなんじゃなくて



心臓を何かが貫いたまま抜けてくれなくて

瞳の奥の筋肉が収縮せぬまま

ピンと糸を張った状態のまま

何もかもが張りつめた状態のまま



眼に宿っている筈の精気すら感じられず

真っ黒な闇に包まれた色を秘めている



頬をまた涙が零れた

心はとおに壊れていたのかもしれない

誤摩化して誤摩化し続けて

気づいたら痛みすら感じなくなっていた



否、痛みは感じる事が出来るけれど

それが重傷なのか軽傷なのかすら分からない

その位 狂っていた



刺しても切っても殴っても

笑いが込み上げてくるだけで



狂った様に笑う僕を遠くでもう一人の僕が見ていた

人はね...やっぱり何処か変わるんだ

もし変わっていないとしたら

その頃から仮面を被っていたんだ

周りに溶け込む為に...誰かが求める仮面を付けていたんだ



だけど 君になら

長い付き合いのある君なら分かってくれると思ってた



君になら見せても良いと思えたんだ



だけど 見せちゃいけなかった

だって君は仮面を取った僕を

真っ直ぐに見てくれる事はなかったから

僕の唇から発せられる言葉の並びにも耳を傾けずに

通り抜けて行く言葉の流れもそのままに



瞳には昔の姿を映して 笑った



嗚呼 ダメだ...まともにその瞳を見てしまったら

僕は何もかもを失って今すぐにでも飛び降りる所だ



最後の最後に仮面を付け直した

昔昔のあの頃の

"変わらないボク"になる為に

僕は昔から変わらないと言われた



そりゃそうだろう

だって僕は昔から僕を演じてきたんだから



もう時効だと思った

こいつになら真実を話しても良いんじゃないかと

そう思って語りだした僕の言葉は君の耳を通過していく



せっかく僕が真実を話しているのに　君は首を傾げて苦笑い

そんな筈が無いと笑ってみせた



嗚呼　僕は君の傍に居ちゃいけないな



瞬時にそう思った

だって君はこんなにも純粋だ

僕が仮面を被って演じていた時期を信じているから

僕が仮面を外して見せても信じようとしない



ねえ　僕を見てよ　ちゃんと



喉まで出かかった言葉を飲み込んだ



だって純粋な君を汚したくはないんだ



君の記憶から僕の存在が消える事はないのかもしれない

だってとても付き合いが長く深いから

だからこそ　この先僕の方をみないようにしないといけないと

そう思った



お願いだから僕なんかに期待を持たないで

僕の発した上辺だけの言葉に反応して笑う君を見る度に胸が痛んだ

お願いだから僕を見ないで

何もかも見透かした様な眼じゃない　そんな期待に満ちた眼で僕を見ないで

君が望む僕を演じる事はいくらでもするけれど



せめて君の前では仮面を外したかったんだ

だけど恐らくこの先も

それはきっと叶わないだろうな

たった一度メールを交わしただけ



ただそれだけだ

なのに君はいつも通りの振る舞いを始めた



あれ？

僕等もう終わったんだろ？

仲直りなんて必要ないよ？



だってそもそも喧嘩したわけでも

"僕が君の事嫌いになった"わけでもなんでもないんだから



ただどうでも良くなった　それだけ

なんで普通の接し方なの？

僕からしてみればぶっちゃけどうでもいいのに

君は普通に会話を交わそうとしている

だからどうでもいいんだって



僕に君は必要ない

君に僕も必要ないだろ？

僕の嫌いな部分があるんだと



そんなの人間なんだから嫌いな所の一つや二つあるだろう

わざわざそんなくだらない事を

今の状況で僕に伝えたって治るわけがない



君と仲直りする為にはー

仲直り？なんだそれ？

仲直り以前に喧嘩もなにもしていない

ただ　性格が合わなかったから連絡を取らなかった

ただそれだけ

何かあったからと言って報告する義務はないだろう？



で　君と前居た関係に戻る為には

嫌いな部分を治す努力をすればいいの？

なんで？

誰の為に？

君の為に？



馬鹿らしい



君に生死に関する迷惑が掛かっているなら考えてもいいけど

どうせくだらないどうでも良い事だろ

君が気にくわないだけだろ



二重人格だとか

八方美人だとか



そんなの僕の中では

今迄生きてきた中で必要なスキルだったから身につけた迄

他人にとやかく言われる筋合いはない



だったら君の嫌いな所も上げてあげようか

きっと切りがないくらいに片っ端から並べられて

結局こじれたままどうでもよくなるんだ



だったらこのまま薄っぺらい関係でいいじゃん



元々そんなに深くはなかったんだから